スポーツカーの定義は!? トヨタ86の真贋

  「彼氏にはどんなクルマでデートに来てほしいですか?」
  「やっぱりスポーツカーかな〜」

  よーし俺もスポーツカーのオーナーになろう!!そう思ってはみたものの、世間一般で言われているスポーツカーってどんなクルマなのでしょうか!? 誰しも自分の考えと世間の認識の間にそれなりのギャップを抱えていると思われるのが「スポーツカーのテリトリー」ってやつです。例えば日本の漫画が発信源となってドイツ人まで熱狂しているという「ハチロク」ことAE86型トレノ/レビン。最近もどっかのネットメディアで「ハチロクから86に乗り換えて感じる進化の痕」みたいなスポーツカー論考がありましたけども、そもそも「ハチロク」はスポーツカーなのか!?

  その昔、カローラ、サニー、ファミリアといったブランドの稼ぎ頭であった大衆向け小型車はFR車で作られていたんですけども、1972年の初代シビックの登場により次々とFF車へと切り替わっていきました。その中でFF化への切り替えがもっとも遅かったのがトヨタのカローラ派生車で、1983年にカローラがFF化されますが、トレノ/レビンはFRのまま残され、たまたま80年代の中旬までFR機構のハッチバックが残ったために「特異な存在」になったのが「ハチロク」です。よってこのクルマは厳密には70年代小型車の生き残りでありスポーツカーと呼べるものではありません。

  その漫画では、スポーツカーでもなんでもないただの実用車であるAE86が、最速を追求して作られた日産スカイラインG-TR(R32)、三菱ランサーエボリューション(Ⅲ、Ⅳ)、ホンダS2000を相手に公道レースで勝ち続けるという「あり得ない」設定を愉しむストーリーなんですけども、ハチロクがスポーツカーとして十全な構造を持っていた!!なんて扱われてしまうと、そのシャシーに11000rpmのレース用エンジン積んでいればそりゃ速いよな・・・ってスペック的に変なリアリティが出てしまって、ストーリーのカタルシス部分が破綻しているんじゃないか?って気もするんですけど、そこがアニメ的なクルマファンのユルい認識が許容してしまっているようです。

  そもそもあの漫画に出て来る純然たるスポーツカーはマツダ(RX7、ロードスター)とホンダ(S2000、NSX)とトヨタのミッドシップ(MR2、MR-S)だけ。あとはAWD化された加速の「鬼」たちと、ホンダが誇ったtypeRシリーズくらいが実戦的なマシンとして登場し、それ以外のシルビア、セリカ、フェアレディZ、スープラなどは完全に雑魚扱い・・・。実際にHOT-VERSIONなどでフルチューンした各モデルでダウンヒルを競うと、S2000とRX7の独壇場になるようですし、サーキットやラリーコースで走ればもちろんAWD勢が断然に速い。

  「雑魚」に分類されているクルマも、それぞれにストイックでタイトなボデーにシェイプアップされており、ごくごく一般的な乗用車(Cクラスとか3erとか?)と比べれば、全く別の乗り味を持っていて、ハチロク(AE86)も本来ならここに分類されるクルマです。よくネット記事のコメント欄でオッサンが「昔のクルマは良かったな〜」なんてつぶやくのは、おそらくこの辺のクルマの「ファジー」なフィールが忘れられないのだと思います。

  誤解を恐れずに言うと、ピュアスポーツカーってのは限りなく二輪車に近い存在で、加速の時は後輪を、ブレーキングの時は前輪を、コーナーでは左右どちらかのアウトの二輪にほとんど全てを乗っけて走ります。トヨタのCVT車を運転している限りでは、まず味わうことのないエキサイティングな走りができるように、特別に車重・車高やホイールベースが設定してあるクルマです。しかしあまりにピーキーな領域でせわしないコントロールが要求されると、さすがに神経が疲れてしまいますね・・・。某国内メーカーも以前はピーキーなハンドリングを売りにしていましたが、数年前からだいぶ「まろやか」なものに変わりました・・・しかし現在は見事に販売不振です。

  そのメーカーに限らず、HVになった「スカイライン」やCVT&AWDでネットリした走りがピーキーとは逆方向で衝撃的だった「WRX・S4」も良心的な価格設定にもかかわらず思ったほど売れませんでした。その反面、トヨタが心血注いで企画した「86」は、多くのオールドユーザーが求めていた「ファジー」さが存分に感じられる設計で見事にスマッシュヒットしました。これはトヨタの営業力よりも企画力の勝利じゃないかと思います。「ピュア」ではなく「ファジー」に降るところが上手い!!

  より「ピュア」な走りを求めるユーザーは86に対して辛辣な意見もあると思います。旋回時にハンドリングが一瞬バカになる現象(これもファジー?)は薄気味悪いし、コーナー立ち上がりで2速で踏むときにムダにハンドルをこじらないと前に進まないし(セダンかよ!)。同乗のエリア86のサービスマンは試乗時に「ハイ!2速!全開!」みたいに指示出ししてくるし・・・。果たしてこれがツボなのか!?FFのアテンザの方がよっぽどスッと前向くけどなー。確かにケツがスライドを関知するフィールは悪くないけど。

  86に文句がある人向けのクルマとして、より「ピュア」な仕立てになっているのが、ホンダS660やNDロードスターなわけですが、ピュアはピュアで自主規制の壁が大きいですね・・・。S660に関してはエンジンの制約がやっぱり痛過ぎる。同じ660ccエンジンで80psオーバーのケータハムのように自主規制越えを果たしてほしかったですが、わざわざミッドシップにして横置きエンジンをそのまま使える構造にした以上は、ベーシックな軽自動車と同じ横置きエンジンを使ってコストを抑えるという作戦が折り込み済みなので、出力を変えられなかったんですね。

  「ピュア」こそがスポーツカーであり、「ファジー」はスポーツカーではない!!・・・正論だと思います。やはり何らかの指針となる仕切りがあった方が、メーカーにとってもユーザーにとっても幸せなことじゃないかと・・・。ロードスターは「ピュア」、ハチロクは「ファジー」だとした時に、「86」は一体どっちになるの?ダンパー変えたところで、バカになるハンドリングが改善されたとは思えないし、プリウスと同じエコタイヤがデフォルトなせいかブレーキの弱さもすぐ露見するレベル。旋回時のスライド感と、ドライビングポジションの「2点豪華主義」に、勢いでいけてしまう価格・・・これだけで商品力・競争力は抜群!!になってしまう慢性的なラインナップ不足が問題なのかな。  


  

  

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